画像生成AIの抱える問題とは?現役イラストレーターが考察
2023年に入り、画像生成AIの普及が話題になってきました。
AI技術はすごいけど、絵師としては不安ですよね。
技術発展は喜ばしい一方で、イラストレーターとして先行きに不安を感じているのも事実です。Twitterでは「著作権侵害ではないか」「イラストレーターの仕事が奪われる」といった討論が多く見受けられます。
今回は画像生成AIの課題に加え、絵師の一人として私が考えたことを詳述します。
画像生成AIとは?
画像生成AIとはテキスト情報を入力するだけで、膨大なデータベースから画像生成が出来るAIのことです。novel AI、Midjourney、にじジャーニー、Stable Diffusionが代表的なAIとして存在します。最も手軽なツールはMicrosoft社のbing image creatorで、2023年3月21日のアップデートにより画像生成機能が使用可能になりました。
これらのプログラムにプロンプト(通称:呪文)を入力することで、誰でも簡単にイラストを生成することができます。当初は英語のみの対応でしたが、現在では日本語でのプロンプト入力も有効になりました。
画像生成AIの問題点
画像生成AIについてしばしば提言される画像生成AIの問題点は下記の2点です。
順番にわかりやすく解説していきます。
① 著作権侵害の懸念
- 画像生成AIの機械学習に用いられた作品が不透明
- 悪意を持ってAIをカスタムするユーザーが存在
② イラストレーターの職が奪われる危険性
①著作権侵害の懸念
AIといえども万能ではなく、画像から学習する必要があります。
そのためには、参考となる画像をAIに教えてやる必要があり、この作業を「AIに画像を食わせる」と表現することもあります。
たとえば、『鬼滅の刃』に関する画像1000枚をAIに学習させた場合、AIは『鬼滅の刃』の作風をかなりの精度で学習します。
その後「男の子、和服、帯刀、額に傷」と指示すれば、きっと炭治郎にソックリなキャラクターが生成されるはずです。
では、そのキャラクターを使用してお金を稼いだらどうなるでしょうか?AIは原作者の絵を元に生成しているため、著作権侵害にあたるのではないか?そもそも、AIに組み込むこと自体が違法では?というのが論点となっています。今回はイラストの例を挙げましたが、写真や芸術作品が使用されるケースも存在します。
事実、アメリカでは多数のクリエイターが、自身のアートがAIの機械学習に使用されたとして訴訟を起こすケースが報じられている状況です。
画像生成AIの機械学習に用いられた作品が不透明
先の具体例では、AIに学習させたイラストが何であるか明記しました。
読者のみなさまも事情を知ったうえで読み進めたため「それは著作権侵害じゃない?」と思われたのではないかと思います。
しかし現実問題として、画像生成AIは誰の、何の絵を学習しているかが不透明なのです。
このMicrosoftのbing image creatorの画像は日本のアニメをよく学習しています。インターネット上に無数に存在する画像の集約と想定できますが、著作権フリー画像のみを学習したとは断言できない現状です。学習元のイラストの著作権はどうなるのでしょうか?
悪意を持ってAIをカスタムするユーザーが存在
事態はさらに複雑化します。
2023年5月10日、Pixivが同社のサービス「FANBOX」においてAI生成作品の取り扱いを禁止したことが話題になりました。
「AI生成作品に対する、FANBOXにおける今後の対応」を公開しました。
— pixivFANBOX (@pixivFANBOX) May 10, 2023
詳細はこちらをご確認ください。https://t.co/RJRb9TDyx4
『FANBOX』は個人クリエイターの創作活動をファンが支援することを目的としたサイトですが、悪意あるユーザーが画像生成AIに特定の有名イラストレーターの絵を学習させ、そこから生成された画像を大量に掲載したり、原作者に嫌がらせをしていたことが明らかになりました。
これを危惧したPixivはAI生成作品のFANBOX投稿禁止を正式決定したということです。
今回の事態は、画像生成AIに関する議論を改めて加速させる結果となりました。
②イラストレーターの職が奪われる可能性
著作権関連の問題とは別に、イラストレーターの仕事が奪われるという懸念も話題です。
引用元:TBS NEWS DIG「中国で『画像生成AI』急速な普及の影で…失職するイラストレーター急増 著作権侵害などの社会問題も」
上記は5月10日のTBS NEWS DIGの記事で、ゲーム専門のイラストレーターが画像生成AIの登場により失業したケースが紹介されていました。
日本は中国よりも画像生成AIの普及が遅れているため、私の周囲の人が失業したといった話はありませんが、これからは対岸の火事では済まされない可能性があります。
現役イラストレーターとして考えたこと
これらのことを踏まえ、現役イラストレーターとしての考えを明らかにしたいと思います。SNSにおいてはかなり過激な論争も見られますが、なるべく冷静に分析した上で考えたことをまとめていきます。
著作権の問題について
著作権法は著作権の原則保護期間は著作者の死後70年を経過するまで有効といった、人為的かつ相対的なルールにより制定されています。
私の考えとしては、裁判所や弁護士などの法律の専門家が「画像生成AIは著作権法違反!」と言えば使用を控える所存ですが、逆に「画像生成AIは合法!」と言えばコストカットの利点も考慮して上手く利用していきたいと考えています。
著作権は複雑かつ相対的なため、法律の専門家に従うほかはないと思います。この点においては法律家を信用するしかなく、現状は静観しつつ画像生成AIについての理解を深めていくつもりです。
しかしながら、画像生成AIが明確に著作権的に合法とされてもクリエイターとして絶対に守りたいプライドはあります。
① 他のクリエイターの著作物は機械学習させない
② 自分のオリジナリティはAIに模倣させない
この2点です。
①は前述のとおり、絵師として他のクリエイターを尊重して生活をしてきました。いまさらそのリスペクトを放棄することはできません。また、いかにAIを使って他の絵師の作風が得られるとしても、それは私の創作物ではないので、そもそも創作の意味が無いのです。
②に関しても、私はキャラクターの絵を描くことが好きなのであり、そこをAIにやらせてしまっては何のやりがいも得られないからです。また、絵を描いている途中で閃く新しいアイディアとの出会いも得られない事を思うと、とても自分の創作活動を全てAIにやらせようとは思えません。
本当にイラストレーターは職を失うか?
私の意見は、すべての職が失われることは無いと考えています。
先進国である日本は著作権意識や企業のコンプライアンス意識が高く、画像生成AIの登場によるイラストレーターの一掃は考えにくいです。
しかしながら、いくつかの分野では価格の低下や仕事が得られない可能性はあると考えます。
たとえば、個人対個人の仕事です。ココナラやランサーズなどでしばしば見かけるブログのミニキャラやヘッダー画像のような、安い単価で多く取引されるサービスにおける絵師は淘汰されるかもしれません。現にブロガーさんの御用達のCanvaという画像編集サービスにおいても画像生成AIが導入されるなど、個人が画像生成AIに触れる機会は拡大しています。
企業であれば、資金力がありコンプライアンスを重要視して人間のクリエイターに発注する余力があります。しかしながら、取引額の小さな個人間においてはクリエイターよりもAIに軍配が上がる可能性があるでしょう。
さいごに
画像生成AIは絵が描けない人々にとっての革命的なツールとなりました。
今後、AI技術は加速度をもって一般に浸透していくことが予想されます。
いかにクリエイターが反対しようとも、技術や文化は大多数の意見によって変化していくことでしょう。よって、これからの絵師に求められるのは「作家のオリジナリティ」や「独自のテイスト」を獲得しつつ、画像生成AIとの共存の道を見出すことです。
その為にも、私は画像生成AIを継続して学習していくつもりです。
なぜならばAIには何が出来て、何が出来ないのかを見極めつつキャリアを積んでいく必要があるからです。
今後、画像生成が流通する時代に向けて、イラストレーターはどう立ち回ればよいのか、次の記事にて深掘りしていきます。
私達イラストレーターにとってAIは逆風となるのか、それともオリジナリティを磨くための追い風となるのか。技術革新に注意を払いつつ、今後も創作活動を続けていきたいと思います。